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設計段階で残価をつくるということ──建築家が語るロングライフ建築

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「残価設定型住宅ローン」──30年後も価値が残る家とは



最近、ネットなどで見る「残価設定型住宅ローン


本来は車の購入で使われる概念ですが、住宅にも同じ発想を適用しようという動きが出てきています。


簡単に言えば、**20年後・30年後にどれだけ価値が残るか(=残価)**を前提にして家づくりを考えるということです。


売却時に評価される家とはどんな家なのか。また、未来に価値が残る家をつくるために、設計者が今しなければならないことは何なのか。


その本質を、建築家としての視点から整理してみます。


■ 残価は「自然に生まれるもの」ではなく「設計するもの」


残価は、ただ長持ちすればついてくるわけではありません。

30年後に価値を保つ住宅には、次のような“意図的な設計”が必要です。


● 気候に適応したパッシブデザイン

  • 深い庇による日射のコントロール

  • 北海道・函館の気候特性をふまえた断熱・気密・窓性能

  • 風雪を避け、雨仕舞いまで計算した外観デザイン計画



● 耐久性とメンテナンス性

  • 風雨に強く劣化しにくい外壁

  • メンテナンスがしやすい納まり

  • 長期的に交換が可能な設備・構法



● 技術的根拠を持った構造計画

  • 地震荷重に対する明確な強度計算 許容応力度計算による耐震等級3

  • 設計者の“感覚”ではなく“数値”で裏付けられた安全性

  • 将来の価値に直結する耐震性能



こうした“積み重ね”が残価をつくるのです。


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■ 性能だけでは残価は生まれない

高性能な住宅でも、30年後に誰も住みたいと思わなければ価値は残りません。残価を決めるのは、性能と同じくらい**「空間の感性」**です。



● 人の心を揺さぶる空間デザイン

  • 普遍性のあるプロポーション

  • 日常の小さな発見を生む光と影の扱い

  • 時を経ても古びない素材選び

  • 世代を超えて愛される佇まい



未来のユーザーに「この家、良いな」と思わせる力こそ、残価として数値化されて返ってきます。



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■ 残価を意識した住宅は、実は“今”も快適で豊か


残価設定を前提にすることは、未来の評価だけを気にする設計とは少し違います。


残価が高い家とは=そもそも今の暮らしが豊かで、性能的にも優れている家です。


つまり、将来の売却価値を高めるということは、いま住む人にとっても合理的で快適な住宅になるということ


未来と現在は矛盾しない。むしろ同じ方向を向いています。


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■ 30年後にも愛される家をつくるということ


残価設定型住宅とは、単に資産としての価値を追うだけのものではありません。

  • 技術的な裏付け

  • 気候への適応

  • 心が揺れるデザイン

  • 時間に耐える構法

  • 持続可能な生活の器



これらをすべて満たした住宅は、“30年後に誰かが住みたいと思う家”になります。


そしてそれは同時に、**「住む人の人生に寄り添う、誇りある家」**でもあります。

残価を意識することは、住宅という存在を“未来の誰かに受け渡す文化”として捉え直すことでもあります。



残価設定型住宅が広まりつつある今こそ、家の本質的な価値をもう一度見つめ直すタイミングです。


家は買って終わりではなく、住みながら育て、未来につなぐもの


その価値が30年後にも残るように、、、

設計者として、これからも環境と時間に耐える住宅をつくり続けたいと思います。

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